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Sunday, December 29, 2019

年の終わりに考える 人肌からデジタルへ:社説・コラム(TOKYO Web) - 東京新聞

 ♪トヨタ、ミツビシ、ソニー、トウシバ…。セルビアの首都ベオグラードのレストランで、生バンドが日本人客のために演奏してくれた曲の歌詞です。メロディーは「上を向いて歩こう」でした。

 一九九九年、北大西洋条約機構(NATO)はセルビアを空爆しました。ミロシェビッチ大統領(故人)による独裁体制を攻撃するためです。その関連取材でひんぱんに現地に赴きました。

 テレビ画面に飛行機の形をしたマークが出ると、それはイタリアの空軍基地から爆撃機が出撃した合図。汽笛のような空襲警報が鳴り響く中、爆撃が始まります。

小さくなった好循環

 レストランで地元の方に「なぜ日本人がバルカン半島の戦争に興味を持つのか」と聞かれたことがあります。セルビアなどバルカン諸国は日本との縁が比較的薄い。だが街では日本車を見かけ、空爆で破壊された跡地では日本製クレーン車が活躍していました。

 当時の欧州で日本について知られていたのはアニメの「キャプテン翼」とサッカーの中田英寿選手、それに多くの企業名でした。

 付加価値の高い製品を生み出し、それで得た資金を再び開発に投じる。この循環は世界経済をリードしていました。ところが二十年後、循環が描く円の規模は随分小さくなってしまいました。

 代わりに今、経済界を席巻しているのは米中の巨大IT企業群です。国内でもIT関連企業は存在感を増しています。

 デジタル。すべてのIT企業が存在の基盤とする概念です。日本の製造業も当然、デジタル技術を使いますが、製品を作るための手だてにすぎません。

 デジタルの核心部分には、無数の半導体が埋め込まれた電脳世界が広がります。そこには常に新たな技術がつぎ込まれます。IT企業は、その「デジタルの泉」ともいうべき空間から次々サービスを紡ぎ出します。

一つの道を究めない

 「車をつくり続けたい」「おいしいビール製造にこだわりたい」。デジタル世界ではこうした一つの道を究めるといった考え自体ほぼありません。自前で新たなサービスを生み出せない場合、他企業の買収という道を選びます。

 九七年、すでにソフトバンクの経営トップとして活躍していた孫正義氏にインタビューをしました。孫氏は「デジタルは私の生涯のテーマ」と述べました。

 トヨタ自動車との提携に昨年踏み切った孫氏は、車を「半導体の塊になるだろう」と予測しました。車を究め続けた企業との共同作業で、巨大IT企業が人々の利便性に役立つどんなサービスを生み出すのか期待は膨らみます。

 今年、フェイスブック(FB)のデジタル通貨「リブラ」が注目を集めました。スマホがあれば簡単にお金を振り込むことができ、銀行口座を持つことができない多くの人々が恩恵を受ける。FBはこう言ってリブラを売り込みます。しかし日米欧の先進各国はリブラに強く反発し、発行延期となりました。

 デジタル技術は情報の漏えいが問題となります。しかし、それ以上に問題なのは情報が集約しやすい点です。言い換えれば運営者が情報を独占できるのです。

 リブラが世界中で使われれば、FBの経営陣は膨大な人々のお金の使い道を知ることが可能になります。その点に日米欧の民主主義国は本能的に拒否反応を起こしたのではないか。

 中国がデジタル人民元を導入しようとしています。間もなく実現するはずです。開かれた議会での審議がない国では、大胆な決定が素早くできます。

 さらに中国政府の狙いが国民の利便性の向上だけではなく、情報管理の強化にあるとの指摘も否定できないでしょう。

 しかし、中国に後れを取るからといって日本など民主主義国がデジタル通貨の導入を急ぐ必要はない。ゆっくりでもいいから議論を尽くすことがデジタルを活用する上で最も大切です。

知らない誰かに…

 日本には百年以上の伝統を誇る企業が中小を中心に無数にある。そこから生み出される有形無形のサービスの内側には、人肌感覚のもてなしが広がっています。老舗側は顧客の気持ちを知り尽くしています。

 デジタルの世界でも人工知能(AI)などを駆使して顧客の気持ちは把握されています。スマホには自分の関心の高い分野や製品の情報が自動的に流れてきます。便利ですが、同時にそれは知らない誰かに自らの関心事を捕捉されていることでもあります。

 来年以降も間違いなくIT産業は経済的規模を拡大し続けます。暮らしに溶け込んでいくデジタルについて、より注意深く学ぶべき時が来ています。

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