スーパーモデルや女優たちが1日に何リットルも水を飲んでいると告白し、肌の万能薬だと称賛されてきた。だから、水が体の内側全体の健康に不可欠である一方で、体の外側で私たちが求めているシミひとつない肌にとっては有害になる可能性があるというのは、何とも皮肉なものだ。顔を洗うことはどんなスキンケアでも極めて重要だから、私たちは常に、1日の顔の汚れを取り去って清潔にしてくれる最高のクリームやオイル、ムース、ローションを探し求めているのに、その顔を洗うというルーティーンの主たる構成要素に、私たちの努力の妨げになるものがあるのだ。それは、水道水だ。
実に幸いなことに、イギリスには世界でもっとも清潔で、もっとも安定した水道システムがある。とは言え、肌に大ダメージをもたらす多くの質の悪い物質が検出されている。イギリス人だけではない。パリジェンヌたちも、パリ市内の水は硬水であるため、水道水ではなくミセラーウォーターを使っていると打ち明けているし、韓国人女性の代名詞、シミひとつない“ガラスのように透き通った肌”は炭酸水で顔を洗っているお陰だという。やり過ぎ? たぶん。でも、サンペレグリノ(イタリア産炭酸水)をストックしておくのは現実離れしているとしても、私たちには他にどんな選択肢があるのか、専門家に聞いてみた。
イギリスの水道水には実際、どんなものが含まれているのか?
公式には、イギリスの水道水は飲んでも、それを使って洗ってもまったく安全だ。しかし、それは、水道水としての厳しいガイドラインに確実に見合うよう、人工的に化学物質やミネラルが加えられているからだということもある。そうした物質の中には、塩素(公共に供給する水の衛生状態を維持するために水道会社が使う殺菌剤)や、フッ素化物(子供の虫歯を減らすため60年前に導入された)などが含まれている。
「水道水は、顔を洗うために使うことができる、おそらくもっともシンプルなものです。が、難点もあり、特に硬水(ミネラルの含有量が高い水)はそうですね。特定の地域では、塩素や銅、亜鉛、鉄といった化学物質が溶解し、かなり高いレベルで水道水に含まれています」と、スキンケア専門家のデヴィッド・ジャック医師は言う。
が、鉛やプラスチックのマイクロファイバー(超極細繊維)といった有害物質もこっそり隠れているのがわかり、それも多くの肌トラブルの原因になっている可能性がある。鉛は、イギリス全国890万世帯(特に1970年代以前に建てられた家)に通っている古い鉛の水道管を通ることで含まれると考えられ、健康に有害なその物質を中和するために水道会社がさらに別の化学物質リン酸を加えて対処している。プラスチックのマイクロファイバーは人工繊維や車のタイヤ、ペンキ、化粧品に含まれるマイクロビーズなど、さまざまなものから排出されるものと考えられ、イギリスを含めたヨーロッパ各国で採取された水道水のサンプルの72%を汚染していることがわかっている。
しかし、排水管の出口には光明があって、専門家は、エストロゲン(避妊用ピルから出て、下水に流される)や内分泌かく乱物質(環境廃棄物から)といったホルモンは、その不安定な特性から、水道水としてたどり着く前に自然に分解されてしまう。
肌にどのような影響を及ぼす?
小ジワや敏感さ、シミ…どんな肌の悩みであれ、水道水はその原因リストでは下位のほうに位置付けられると考えていいだろうが、おそらく、蛇口をじっとよく見たほうがいい。「私はよく患者さんに、やかん(ケトル)やシャワードア(注:バスタブの上につけて水が外にはねないようにする折りたたみ式の透明のプラスチック板)の状態を思い起こしてもらいます」とフェイシャリストのレネー・ラピノは説明する。
「そこにつく石灰のカスに含まれるのと同じ金属や化学物質は、水に浸かった時に肌に残るのと同じ物質で、吹き出物や汗腺の詰まり、ブラックヘッド、紅斑につながる一方、水道水に含まれる金属は肌のバリア機能を衰えさせ、炎症やニキビ、酒さ、湿疹のほか、色素過剰を引き起こします。水に含まれる低量の有害物質が肌の微生物叢(プレバイオティックとプロバイオティックの両レベルで)にダメージを与え、乾燥や脱水状態、オイリーなのにパサパサした、くすんだ肌となって現れるのです」
難しいスキンケア問題なのは否定できないが、酒さやシミの影響を受けないようにしようと悩む必要はない。薬を服用中の人や、水分不足の肌あるいは色白の人、腸に問題のある人(内部の炎症によって)や、老化を食い止めようとしている人のほうが、そうした物質に弱いと言う。
「研究から、塩素配合の水は老化プロセスを早め、日光を長く浴びた時と同じように、色素沈着や、弾力のなさといった影響が出ることがわかっています。塩素を配合した水は肌にもともと備わった皮脂や保湿能力を激減させ、その結果、湿疹などを悪化させます」と美容外科医で肌の専門家レカ・テイラー医師は説明する。実際、いくつかの研究から、「たんぱく質や湿疹と関係のあるフィラグリンが存在していることから、硬水の水道水と子供の湿疹の進行は関係があることがわかっています」と、The Cranley Clinicのコンサルタント皮膚科医オフィーリア・ヴィレッチ医師は説明している。
住んでいる地域によって違いはある?
お気に入りのボディケア製品がシャワーシェルフの上で見苦しい膜に覆われていたら、自分は硬水のエリアに住んでいるのだとわかる。シャワードアをきれいに洗うのは悪夢のようだし、やかん(ケトル)は詰まり、ワイングラスを磨くのにたいへんな時間かかってしまう。が、もし自宅の水道水でこのような影響がでるとしたら、あなたのデリケートな肌へのダメージはどうなるのだろう?
「水道水は住んでいる地域によって異なります。“硬く”も“軟らかく”もなり、イオン含有量とPH値に関係しています」と、ヴィレッチ医師。「硬い水にはカルシウムやマグネシウムといったミネラルイオンが高レベルで含まれており、それらがほとんどの顔用クレンザーに含まれているラウリル酸ナトリウムやラウレス硫酸ナトリウムなどと結合して、肌から取り除くのをより難しくしているのです。こうした硬水に含まれる高レベルのミネラルイオンがフリーラジカルのような働きをしてダメージを引き起こし、コラーゲンが分解する原因になります。また、硬水はアルカリ度がよく高く、私たちの肌の自然のバリアはやや酸性ですから、PHを変化させ、肌が自然に持つ機能を妨げます」
洗った後、よく肌がこわばるように感じるのはこれが原因で、肌のバリア機能の、長期的には肌状態の悪化につながる可能性がある。ヴィレッチ医師は、穏やかで若干酸性のクレンザーを使い、ビタミンCなどの抗酸化物質を肌表面に塗って「アルカリ性の水道水が肌に与える影響とのバランスをとる」ことを勧める。
ダメージを最低限に抑えるには?
幸いなことに、水道水が肌に与える影響から逃れようと頑張らなくてもいい。パーフェクトではないかもしれないけれど、日常生活で避けることのできない、不可欠な部分だ。とは言え、肌への影響を取り除くためにできることはある。「肌を清潔にして細胞のターンオーバーを促進する水が必要です。顔を洗うたびに、私たちは死んだ細胞や細菌、公害、余分な皮脂を取り除いて、肌に新しく健康な細胞を作るように伝えているのです」とラピノ。
「私はクリニックに前述したようなトラブルを抱えた新しい患者が来るたびに、まず、シャワー用のウオーターフィルターを買うか、家全体に水の濾過システムを設置するように言います。1度目にシャワーを浴びた時に肌や髪に違いが出るのがわかり、続いて、まつ毛や眉、爪がよく成長するだけでなく唇がふっくらと柔らかくなるのに気づきます。清潔にしようとするたびに金属や化学物質、ホルモンなどを肌に残してしまわないので、ボディ全体がそれほどいい状態になるのです」
エイジレスな肌で知られるパリジェンヌだけれど、彼女たちがクレンジングの代替手段として選んでいるものに対して、専門家の判定はアウトだ。「まったくダメですね。私はミセラーウォーター(水で洗い流す必要のない拭き取りタイプのクレンジング)を使うことには反対です」とルピノ。「肌表面に残留物が残り、その後につけるセラムやモイスチャライザーなどスキンケア製品をブロックしてしまいます。また、肌のモイスチャーバリアを弱めて、炎症(すべての老化の根本)や赤み、過敏の原因になります」。
ジャック医師も同意する。「ミセラーウォーターは水のように見えるクレンジング製品ですが、実際は溶解した界面活性剤が入っていて、汚れや皮脂を集めて溶かし、ミセルという小さな脂肪の塊にしていくのです。が、これには肌をPHバランスのとれた状態にしたり、保湿剤としてのメリットが加えられていたりすることもよくあります」。汚れやメイクアップを取り除くために使う場合は、使用後に残留物を洗い流して。
Translation: Mitsuko Kanno From Harper's BAZAAR UK
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