時は1985年9月13日。今からちょうど35年前の今日、ファミリーコンピュータ版の元祖「スーパーマリオブラザーズ」が任天堂から発売された。
リリース直後から爆発的な人気を博し、異常なまでに加熱したファミコンブームの主役となった本作は、何と681万本という驚異の販売本数を記録。「ドラクエ」や「FF」、「ファミスタ」シリーズ(※一部作品をのぞく)や「テトリス」など、ミリオンセールスを達成した数あるタイトルのなかでも、その数字は群を抜く。海外でも大ヒットとなり、現在までに全世界で4,000万本以上も売れ、「世界で最も売れたゲーム」としてギネスにも認定されている。今やマリオが正真正銘、ワールドワイドなスーパースターであることは、異論を挟む余地などないだろう。
そんな本作が35周年を目前に控えたタイミングで、任天堂は「スーパーマリオブラザーズ35周年 Direct」の映像をネット上で公開、来春までの新作ソフトの発売やコラボ企画の実施予定を明らかにした。公式サイトには「スーパーマリオブラザーズ35周年」のコーナーが追加され、Twitterにも「スーパーマリオブラザーズ35周年」の公式アカウント(@supermario35th)も開設。また、今月18日には「スーパーマリオ3Dコレクション」が、11月13日には「ゲーム&ウオッチ スーパーマリオブラザーズ」の発売が予定されるなど、今なお関連シリーズの新作、リメイクが発売され続けるその勢いは、まさにとどまるところを知らない。
そこで、この機会に「スーパーマリオ」シリーズの変遷を振り返りつつ、本シリーズが我々にもたらしたものは何だったのか、そして今後のあるべき姿はどんなものなのか、改めて考えてみたい。
文字どおりスーパーな存在へと進化したマリオの衝撃
筆者が「スーパーマリオブラザーズ」の存在を最初に知ったのは、確かプロ野球中継の合い間に流れたテレビCMだった。当時は、創刊されたばかりのファミコン専門誌「ファミリーコンピュータマガジン」の存在をまだ知らなかったので、ゲームの情報源はテレビCM、子供向け雑誌の記事と、おもちゃ屋さんの店頭に限られていたからだ。
CMの映像は、まさに衝撃の連続だった。スーパーキノコを取ったマリオが、今までまったく聞いたことがない、摩訶不思議なジングルが鳴ると同時に巨大化するシーンにいきなり度肝を抜かれた。しかも、かつての「ドンキーコング」や「マリオブラザーズ」よりもはるかにスピーディに動くではないか!
見た目にも美しい、山や海、空、地下などのバリエーションに富んだステージが次々に映し出されると、感動はさらに深まるばかり。壮大な世界を舞台に、マリオが敵を踏んだり飛び越えたり、あるいは高速で走り抜けたり泳いだり……。まさに時代の最先端、かくも壮大な冒険が楽しめるゲームが登場したのかと、わずか15秒間ですっかり魅了されてしまった。
本作が発売された数週間後、小学校の同級生が「スーパーマリオ」を買ったという情報を聞くやいなや、友人宅に早速押し掛けて遊ばせてもらった。画面の美しさやノリノリのBGMも本当に素晴らしかったが、特に筆者が感動したのは、一見すると何もない所でジャンプすると空中にブロックが出現し、1UPキノコやコインが出現する隠し要素が盛り込まれていたこと。隠れた物、あるいは未知のアイテムやルートを発見、獲得するする喜びは、これほどまでに快感なのかということを、本作を通じて教えてもらったことは生涯忘れることはないだろう。
やがて、ワープソーンの存在や最終エリアのワールド8の攻略法が、友人間やファミコン専門誌、攻略本で徐々に明らかになるにつれて、最終面(ワールド8-4)をクリアしてエンディングまで到達するプレーヤーが、筆者の周囲に大勢現れるようになった(もちろん筆者もそのひとりだ)。だが、それでもみんな飽きることなく、しばらくの間本作に夢中になっていた。
モチベーションが落ちなかった大きな理由のひとつが、ファミコン専門誌やマンガ・ホビー雑誌の裏技コーナー、または攻略本で紹介されていた数々の裏技の存在だった。当時のメディアには、かの有名な「マリオ無限増殖技」や「ポール飛び越し」をはじめ、「チビファイアマリオ」や「マイナスワールドへのワープ」などバグをも利用した裏技、さらには「キン○(伏せ字)マリオ」のようなお笑いものに至るまで、毎号のように多くのネタが掲載された。当時はみんなで新ネタが登場するたびに、「自分たちでもやてみよう」と挙ってチャンレジしたものだった。
ちなみ、徳間書店刊「スーパーマリオブラザーズ完全攻略本」は120万部以上(※数字は元編集長の山本直人氏の著書「超実録裏話 ファミマガ」より引用)も売れ、1985年の年間ベストセラーとなった。本作の人気ぶりがいかにすごかったのかが窺える、まさに驚愕の数字だ。
新作が出るたびに、さまざまな「遊び」を提供してくれるのが本シリーズの真骨頂
なぜ「スーパーマリオ」シリーズは今なお愛され、そして続編や関連タイトルが発売され続けては、我々を魅了し続けるのか? その答えはズバリ、新作が登場するたびにさまざまな「遊び」を体験させてくれるからだ。以下、歴代の主だったタイトルの特徴をざっと振り返ってみよう。
シリーズ第2弾にあたる「スーパーマリオブラザーズ2」(1986年発売)は、前作を遊び尽くしたプレーヤー向けにというコンセプトのもと、操作方法やルールは以前とまったく同じだが、難易度は比較にならないほどアップしたのが最大の特徴。空中にいるパタパタを踏んだ反動を利用して狭い足場に飛び移ったり、突然強風が吹いてマリオの体を押し流すなど、スリリングな場面が目白押し。取るとミスになる毒キノコや、以前クリアしたワールドに戻される「逆ワープゾーン」といった数々のトラップも随所に仕掛けられていた。
開発スタッフが、本作をあまりにも難しくしたがゆえの配慮なのか、数々の難関を突破して8-4をクリアすると、ご褒美としてタイトル画面に★マークを表示し、マークを合計8個以上集めると隠しステージのワールドA~Dが遊べる、驚きのご褒美があった。また、ワープゾーンを使わずに8-4をクリアすると、ワールド9に進める仕掛けも用意されていた。さらに、マリオとルイージの性能を変えた(※ルイージは、マリオよりもジャンプ力が高いがスリップしやすい)ことで、それぞれ異なる攻略パターンを作って楽しめるようにした点も、本作の特徴のひとつであった。
シリーズ第3弾の「スーパーマリオブラザーズ3」(1988年)では、マリオがしっぽ、またはタヌキマリオに変身後、パワーメーターを満タンにしてからジャンプボタンを連打すると、空を飛べる新アクションが登場。ほかにも坂道を滑って降りたり、踏みつけたノコノコのこうらを持ち上げてキックができるなど、後のシリーズ作品にも引き継がれた数々のアクションが追加され、我々を楽しませてくれた。また、ワールドごとにマップ画面を表示し、プレーヤーが遊びたいステージを選択するシステムを導入したのも本作からだ。
それからスーパーファミコンのローンチタイトルのひとつとして登場した「スーパーマリオワールド」(1990年発売)では、マリオの名パートナー、ヨッシーが初登場。ヨッシーという動物を乗りこなし、敵や障害物を避けたり、木の実や敵などを食べるという「遊び」の要素が新たに加わった。ほかにも壁を垂直に駆け上がったり、金網などにしがみつくアクションも可能。マントマリオに変身すると、前作のように空を飛ぶこともできた。
さらにニンテンドー64のローンチタイトルとなった「スーパーマリオ64」(1996年)では、フィールドマップが2Dから3Dに進化。アナログスティックをグリグリ回し、前後左右にマリオを自由に動かしながら敵を倒したり、ボタン操作との組み合わせでギミックを動かすなど、従来のシリーズにはなかった斬新な面白さを実現。ヒップドロップに三段跳び、カニ歩きやボディアタックなどなど、マリオのアクションもますます多彩になった。
3Dマップによる高低差を生かし、視点によってはブラインドになる位置や隠し部屋に配置されたスターコインを、カメラを動かしつつ探す楽しさも本作ならではのもの。このコインやメダル類を楽しみ方は、後のシリーズ作品にも継承されている(※3DS版「スーパーマリオ3Dランド」のスターメダルなど)。また、近年のシリーズ作品でもおなじみの、チャールズ・マーティネー氏が演じるマリオのボイスが収録され、ビジュアル・サウンド両面でマリオのキャラクター像が完成したと言う意味でも忘れられない作品だ。
Wiiリモコン、ヌンチャクというWii独自のデバイスを活用し、新たな「遊び」を生み出したのが「スーパーマリオギャラクシー」(2007年発売)だ。本作では、マリオが3Dの宇宙空間を華麗に飛ぶ姿を披露するビジュアル面だけでなく、宇宙に散らばるスターピースにWiiリモコンを向けると自動で吸い込んだり、Wiiリモコンを振るとスピンして敵を攻撃したり、ギミックを回すことも可能。空間に浮かんだ「スターキャプチャー」ポイントしながらボタンを押すと、マリオが吸い寄せられて遠い場所にも瞬時に移動できるなど、触覚でも大いに楽しませてくれた作品であった。
ニンテンドーDS版の「Newスーパーマリオブラザーズ」(2006年発売)では、フィールドマップは2Dだったが、巨大キノコを取ると巨大マリオに変身し、あらゆるものを体当たりで破壊できる爽快感は格別。DSの小さなモニターでも、すさまじい迫力とアクションを披露してくれた。同じく、「NewスーパーマリオブラザーズWii」(2009年発売)もマップは2Dだったが、こちらは最大4人で遊べる協力・対戦プレイや、初心者救済のための機能として、ルイージが登場する攻略動画が見られる「おてほんプレイ」を導入したことでも歴史に残る作品だ。
「スーパーマリオメーカー」(Wii U/3DS、2015年/2016年発売)では、プレーヤーがオリジナルのステージを自作して遊んだり、作ったステージをネット上に投稿して世界中のプレーヤーたちと遊ぶことができるという、これまた新しい「遊び」を実現。そして、現行機種のNintendo Switch用ソフト「スーパーマリオ オデッセイ」(2017年発売)では、帽子のキャッピーがパートナーとして新登場。キャッピーを投げ、足場代わりにして遠くの場所に飛び移ったり、マップ上にあるいろいろなギミックを動かしたり、カエルや恐竜などのキャラクターをキャプチャーして自由に操れるのが楽しい作品だ。
ほかにもまだまだシリーズ作品はたくさんあるが、上記に挙げただけでも実に多くの「遊び」が作り出されていたことがわかる。なお、シリーズ35年の詳しい歴史を知りたい方は、任天堂の公式サイト内にある「マリオヒストリー」のページをご覧になることをおすすめしたい。
これからも、世界中のゲームファンに楽しい「遊び」と夢を与え続けてほしい
2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピックの閉会式で、安倍晋三首相(当時)がマリオのコスプレをして会場に現れたことが象徴するように、初代「スーパーマリオ」の誕生から35年が過ぎた今もなお、マリオは国境、時代を超えたヒーローであり、強さやカッコよさ、楽しさのシンボルとして世界中で愛され続ける存在だ。
前述した「スーパーマリオブラザーズ35周年 Direct」によると、10月には新作「マリオカート ライブ ホームサーキット」が、来年2月には「スーパーマリオ3Dワールド+フューリーワールド」の発売が予定され、さらにNintendo Switch Onlineでは、10月から35人が同時に対戦できるバトルロイヤルゲーム、その名も「SUPER MARIO BROS. 35」を期間限定で配信されるとのこと。これらのタイトルにも、もちろん期待せずにはいられない。
プラットフォームやネットインフラなど、今後も社会環境はどんどん変わっていくだろうが、これからも「スーパーマリオ」シリーズには、我々に新しい「遊び」や感動、驚きを我々に提供し、時代の先駆者として走り続ける存在であってほしいと心から願っている。また、間もなく発売される「スーパーマリオ3Dコレクション」や、Nintendo Switch Onlineなどを利用した復刻シリーズも定期的にリリースすることで、常に親子2代、あるいは3代でゲームが楽しめる場をずっと用意していただきたい。世界中のゲームファンにとって、本シリーズは「遊び」の伝道師的な存在であり、かけがえのない宝物なのだから。
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