藤井聡太二冠(18)は、どうしてこれほど強いのか――。その謎を解き明かす書籍「藤井聡太論 将棋の未来」が出版された。かつて藤井二冠と同じように若き天才とうたわれ、最年少名人の記録を今も保持する谷川浩司九段(59)の新著だ。藤井二冠も出場する竜王戦の本戦(決勝トーナメント)開幕に合わせ、読売新聞オンラインは谷川九段にインタビューした。レジェンドの言葉を、2回に分けてお届けする。(聞き手・藤山純久、田口栄一)
――藤井聡太論を執筆するきっかけは?
「手がけ始めたのは去年の夏ですね。藤井さんが棋聖と王位を取った頃です」
「彼は一昨年ぐらいから、実力的にはいつタイトルを取ってもおかしくはなかったのですが、タイトル戦に出て『あと1勝で初タイトル』という時、どのように気持ちが揺れ、それが指し手にどんな影響を与えるのか。そこに僕は、個人的にものすごく興味があったんです。ところが、棋聖戦でも王位戦でも彼は全く気持ちが揺れることなく、実力を100%出していたので、改めて規格外の棋士なんだと実感しました。それがきっかけです」
――初タイトルというのは、どんなに強い棋士にとっても、やはり特別なものなのでしょうか。
「将棋界には現在、タイトル戦は八つしかありません。タイトル戦に出場することすらかなわない棋士が多いわけです。私は初めて名人を獲得した時、勝ち筋が見えた瞬間に息が苦しくなって、しばらく手の震えが止まりませんでした。先輩棋士も後輩棋士も、やはり初タイトルがかかる一戦で勝ちが見えた時に何かあったんですよね。しかし、藤井さんの場合、ほとんど普段と変わらない様子でした」
――大一番でも平常心を保てる精神力の強さなのでしょうか。これまで以上に藤井二冠について研究されるようになってから、どのような気づきがありましたか?
「タイトルを獲得した時もそうでしたけど、その後はさらに驚きでした。彼はほとんど成績が落ちることがなかったですし、ますます実力もつけて、秋以降はあまり負けてないですよね」
「今までの棋士はタイトルを取った後、ほぼ例外なく成績を落としています。野球で2年目のジンクスという言葉がありますけど、将棋でもこれは自然なことです。今まで序列何十番目だった人がタイトル獲得で突如ベスト5くらいになるわけですから、その環境の変化は大きいのです。例えば、今まで下座に座っていたのに、先輩棋士相手でも上座になる。駒箱から駒を開けるとか色々な所作をするようになる。普通の人なら居心地は良くないはずだし、ましてや藤井さんは18歳です。今まで通りの気持ちで対局に臨むのは簡単なことではありません。もちろん、タイトル保持者になれば、今まで以上に研究もされることになります。慣れるには普通、数か月を要するはずなのです」
――他の棋士からの包囲網をかいくぐる難しさは、谷川九段ご自身も経験されたと思います。そうした難しい状況でも藤井二冠が勝ち星を挙げられるのは、なぜなのでしょう。
「タイトルや記録が注目されますが、彼を見ていて思うのは、とにかく将棋が好きで『将棋の真理』の追究を考えている、ということです。だから、タイトル戦の決着局でも普段の力が出せたのだと思います」
「勝ちにこだわるのであれば、相手の得意戦法を徹底的に研究して、相手の力を出させないようにするのが普通です。しかし、藤井さんは決して相手の得意を避けたりしない。将棋の世界ではAI(人工知能)によって序盤の研究が進んでいるのですが、彼は序盤から堂々と相手の得意戦法を自然に受けて、真っ向から勝負をしています」
――これまでに誰か、似たタイプの棋士はいますか。
「羽生善治九段(50)に通じるところがありますね。羽生さんもやはり相手の得意戦法から逃げることはないです。相手の得意とする戦法で戦う方が、新しい考え方と出会えるからです。相手の考え方を吸収して学んでいくという感覚でしょうか。羽生さんの場合、好奇心と言ってもいいかもしれません」
――厳しい対局を重ねるごとに知識と経験を積めるわけですね。確かに藤井二冠はよく「強くなりたい」という言葉を使います。
「そこがぶれることがないのが、藤井さんの強さの源の一つだと思います」
からの記事と詳細 ( 18歳の藤井聡太は「私よりも気持ちが揺れない」…将棋レジェンド・谷川浩司九段の考察 - 読売新聞 )
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