フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら。
〈依頼人プロフィール〉
佐藤雅子さん 50歳
歯科医
東京都在住
◇
生まれてくるのは、男の子とばかり思っていたという父。予想に反して女の子の私が生まれた時は、名前も慌てて姓名判断だけで決めたとか。少し大きくなってそんな話を聞いて、私、生まれてきてよかったのかな……と思ったこともありました。
でも今になり、昔話をいろんな人からうかがうと、父は私が生まれた瞬間から私にデレデレで、同時にあいさつ、お作法などを丁寧に教え込んでくれたそうです。仕事人間なイメージの父ですが、私のことはずっと心配してくれていたみたいです。
父は自宅で開業する歯科医でした。学校から帰ると薬のにおいがする診察室で、父が丁寧に患者さんを治療する姿を見ながら私は大きくなりました。毎朝、身なりをきちんと整えて、真っ白なワイシャツで診察室に向かっていた父。ダラダラしているところなんて見たこともなく、尊敬できる存在でした。私は、昔はほかにいろいろやりたいことはありましたが、結局父の背中を追って、現在、同じ歯科医として働いています。
今、その父は病と闘っています。どうなるか正直わかりません。
ただ、今私ができることは、父の顔を見て会話し、一日一日少しずつでも時間を共有すること。治療に通っている病院のある地方都市で、86歳にして生まれて初めての一人暮らしをしながら治療に臨んでいる父を、週1回訪ねて、父の体調をチェックしたり、身の回りの世話をしたりするのが私の役目になりました。
父は人のために何かをするのが大好きです。治療のために慣れない一人暮らしに挑戦しながら、「私がいないとお取り寄せを誰もしないだろうから」と、留守宅の家族の健康を気遣って旬のリンゴを送っています。一方、人に何かしてもらうことは少し苦手なよう。私が訪ねていくと「迷惑をかけるね」と申し訳なさそうにしています。
予想外の病にも前向きに立ち向かい、父は今日も身なりをきちんと整えて今ごろ病院に向かっているはずです。そんな父にエールとともにお花を贈っていただければと、父のところから帰る飛行機の中で投稿を書いています。
こうして父の元に通うことは、少しも迷惑なんかじゃない。むしろ少しでも父に恩返しができる、私にとってのかけがえのない時間だということも伝えたいです。よぼよぼになってもオシャレな父が、前向きになれるお花をお願いします。
花束をつくった東さんのコメント
闘病、初めての一人暮らし……そんな状況にありながら、通ってくれる娘さんを気遣われているというお父さま。世話好きの面もお持ちとのことで、今回は今後、お父さま自身でも育てることができるグリーン中心の植物を選んでアレンジにしました。
カランコエ、ラン、そして多肉植物など、アレンジで楽しんでいただいたあとは鉢から分解して育てていただければ、植物のパワーをもらえて、お父さまの気も紛れるのではないかと思いました。ユリのつぼみも入っているので、これも花が開く様子を見てもらえます。お父さまの病気に立ち向かう挑戦、応援しています。
文:福光恵
写真:椎木俊介
読者のみなさまから「物語」を募集しています。
こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
応募フォームはこちらからの記事と詳細 ( 少しも迷惑なんかじゃない。かけがえのない父との時間 - 朝日新聞デジタル )
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