少し知ることが逆に誤った理解につながることもあります。障害について正しく理解することは、出生前検査を考えるうえでもとても大切なことです。今回は、インクルーシブ教育について考えてみようと思います。アピタルコラム「おなかの中の命を見つめて」です。
インクルーシブ教育というのは、障害のある子どもたちと障害のない子どもたちが共に学ぶスタイルのことで、本来あるべき「共生社会(障害者も、積極的に社会参加・貢献していける社会)」をめざす取り組みの一つです。その反対は、「分離教育(障害のある子どもたちを、障害のない子どもたちと別々に教育すること)」です。
インクルーシブ教育は、時々誤解されますが、個別指導を否定する考え方ではありません。すべての子どもたちが、ともに学び、協力するために、それぞれに必要な「合理的配慮」や、通常級、通級指導、特別支援学級、特別支援学校といった多様な学びの場も同時に大切にします。
そしてインクルーシブ教育は、障害のある子どもたちはもちろん、いわゆる障害のない子どもたちにも効果をもたらすものと考えています。
個別支援が求められるような障害児だけでなく、通常級にいる発達障害の傾向のある児童や、母国語が異なる児童、貧困家庭や不適切養育家庭の児童など、誰に対しても望ましい教育の場をめざしています。
弱者を大切にできる社会を作っていくことは多くの人の幸せにつながると思います。そして、健常者と障害者。両者に大きな境目はなく、誰もが弱い面や苦手な面を持っていてそこに善悪も優劣もないこと、お互いに支え合ったり補い合ったりして生きていることに自然と気付ける、学びの場なのではないでしょうか?
障害のある子と接する機会は増えても…
最近、出生前検査を検討して来談されるカップルに「ダウン症候群の方と関わったことはありますか?」と聞くと、たいていは「小学生のとき交流したことがあります」とか「一緒に通学していました」などと答えます。
昔と比べれば、障害のある子どもと身近に接する機会は確実に増えているのだろうと実感します。
しかしその上で、「何か印象に残ったことや思い出はありますか?」と聞くと、多くの場合、「特にありません」と答えるか、「親御さんが大変そうだった」とか困ったり嫌だったりしたエピソードなどを話されます。
これでは、本当の意味でインクルーシブ教育の成果が実っていないのではないかと感じます。
確かに少し知っている。でも……。
中途半端に知ることはかえって差別感情を生むのかもしれません。
健常者は、障害者がどのような困難に出会っているのか、どんな気持ちなのか理解しにくいと思います。想像がいたらずついつい自分の尺度で理解しようとする。
適切な介入がないと誤った認識のままのことも
たとえば、身近にいる障害のある友達を見て、自分に不自由がないことを良かったと思うだけであれば、「障害者は大変だし家族や周囲に迷惑をかけている。自分はそうではない」という認識に終わってしまいます。
互いに衝突があったり課題が見えたりした時、不適切な教育者の介入があると、障害者に対するイメージが固着し、誤った認識や対応を学習する機会にもなるかもしれません。
また、障害者側も、インクルーシブ教育のなかで、「自分はまわりと同じにはできない」、「迷惑をかけている」という思いを強くして自己肯定感を低くしたり、その上で、処世術としておとなしく周りに溶け込んだり、感情を押し殺して過度に従順であろうとしたり、諦めることばかりを覚える場になってしまうリスクもあります。
インクルーシブ教育そのものの理念は素晴らしいですが、実際にはとてもチャレンジングな教育であり、実際の教育体制はまだまだ追いついていないのではないかと感じます。
もちろん、知らないよりは知る機会がある方が良いとは思います。ただ、知った気になるのは危険です。
たとえば、出生前検査を肯定する意見には、「障害を持って生まれるなんてかわいそう、障害は受け入れがたいもの」という考えがベースにあると思います。障害を持って生きることそのものを否定しています。
確かに、障害者を苦しめているのは、障害自体でもあります。
ですが、それだけでしょうか?
彼らを苦しめるものとして、社会の無理解や無関心も大きいのではないでしょうか?
障害者も健常者もどちらのいのちも尊く、誰もが幸せに生きるために生まれてきていると思っています。ですが、障害者が生きるにはさまざまな困難を伴うのも事実です。そういうときに、できることだけに価値をおかず、できないことがあるからこそ周囲に働きかけてより良いかたちで成し遂げていくことにも価値を見いだせるといいなと思います。
出生前検査を検討するカップルには、彼らにとってかけがえのないおなかの中の命の存在を感じながら、改めてよく「考えて」ほしいです。そのためには、よく「知る」こと、それと同時に、きちんと「理解する」ということが大切だと思っています。(浜之上はるか)
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