「あと少し奥へ踏み入れば、村の道祖神が護る境界を越え、山の神様の領域となる」。仙台市の作家熊谷達也さんの『邂逅(かいこう)の森』は、東北の伝統的な狩猟者「マタギ」の世界を描く。獲物は山の神様からの授かり物。マタギの村と神聖な森との間には明確な境があった▼獣が人里に下りて被害を及ぼすのを命懸けで食い止めた。昭和を生きた秋田県阿仁地方の比立内マタギ、故松橋時幸さんの一代記『第十四世マタギ』。先祖は農作物の被害防止のため、秋田藩から男鹿半島の鹿狩りを命じられたという▼人間とクマとの距離が近づく。宮城県では本年度、今月13日時点で、クマによる人的被害が5件発生し、計7人がけがをした。被害人数は過去10年間で最多。住宅地近くでの被害も増える傾向にあり、県自然保護課は「身近な所にクマはいる」と警戒を呼びかける▼「アーバンベア」。都市に隣接する森林に生息し、市街地に出没するクマをそう呼ぶ。今月、仙台市で街路樹に登った体長1・2メートルのクマが捕獲された。現場は、JR仙山線陸前落合駅のすぐそば。身近にいた▼マタギが守った、森と人が住む世界の境界がかすむ。人間が招いてしまったのか。クマと出合うのは森の中だけではない。秋の行楽シーズン、自然災害と同じように備えを。(2022・9・26)
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