(2021年7月10日付朝刊掲載)
バドミントン男子の桃田賢斗は、最近、髪の毛を染めた。金色が入り混じった髪形になり、「金メダルも意識しながら、気分も明るく。ちょっとイメージチェンジさせてもらった」。五輪開幕まで2週間。今年に入って試合がほとんどなく、練習中心の日々だったが、「コンディションも少しずつ上がってきている」と、本番モードに入ってきた。
男子シングルス世界ランキング1位。誰もが認める金メダル候補だが、そこには計り知れないプレッシャーと、揺るぎない自負が同居する。「『世界1位』と言われると、どうしても負けてはいけない気持ちになる。楽に1位になったわけでもないし、しっかり自分が積み上げてきたものがある」
この場にたどり着くまで、山あり谷ありの5年間だった。2016年4月、違法カジノ店での賭博が発覚し、日本協会から無期限の出場停止処分を受けた。メダルが有力視されたリオデジャネイロ五輪を棒に振り、ともに日の丸を背負うはずだった仲間たちのプレーは、自責の念から見ることが出来なかった。最高2位だった世界ランクは、国際大会に復帰した17年7月には282位まで落ちていた。
実戦を離れた1年間、奉仕活動に参加し、コンプライアンス研修を受けた。以前は好きな練習には力を入れ、それ以外は手を抜く姿も見られたが、「自分と向き合い、本当に地道に練習を重ねてきたつもり」。好きではなかった走り込みにも真剣に取り組み、周囲が声をかけづらい雰囲気になるほど、緊張感を持ってコートに立つようになった。
天才が努力を重ねれば、結果が出るのは必然だ。18年に世界選手権男子シングルスで日本勢初の優勝を飾り、日本男子初の世界ランク1位に。どん底からはい上がった男は、不祥事の前より明らかに強くなった。
日本代表の
昨年1月、遠征先のマレーシアで交通事故に遭い、
運転手が亡くなった大事故から生還したことで、新たな境地に入っている。「自分のためだけではなくて、バドミントン界に良い影響を与えられるような選手になりたい」。生まれ変わった日本のエースが、恩返しの舞台に立つ。(帯津智昭、おわり)
桃田賢斗(ももた・けんと) 1994年生まれ。香川県出身。福島県立富岡高3年だった2012年、世界ジュニア選手権男子シングルスで優勝し、世界選手権は15年に銅メダル、18、19年に2連覇。19年に国際大会で挙げた11勝は、ギネス世界記録に認定された。昨年12月の全日本総合選手権で3連覇を達成。1メートル75。NTT東日本所属。
五輪延期決定後、世界の強豪がそろって出場した国際大会はなく、現時点の実力は未知数。桃田自身がライバルとみているのは、世界ランキング2位でリオデジャネイロ五輪銅メダルのビクトル・アクセルセン(デンマーク)だ。同じ1994年生まれで、これまで何度も対戦してきた。2019年のワールドツアー・ファイナル決勝で桃田が逆転勝ちした同5位のアンソニーシニスカ・ギンティン(インドネシア)も手ごわい。リオ金で同6位の●龍(中国)は、桃田との対戦成績は5勝5敗と
(●は「ごんべん」に「甚」)
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